2025年5月16発売
買って読みましたので、感想や読書メモなどを書きます(※ネタバレあり)
表紙は「あのコは夏フェス焼け」をイメージしたイラストを描かれた藤田和日郎先生。「うしおととら」アニメ化では先生が筋少ファンであることから、筋少が主題歌を2曲提供しました。
2010年アルバム「蔦からまるQの惑星」収録。このアルバムジャケットのイラストは浅尾いにお先生なんですね。筋少と漫画家さんの関わりはインディーズ時代のジャケットから多くいます。ファンを公言されている漫画家さんもたくさんいますね。いつか藤田先生の他にも筋少ファンの漫画家さんでアンソロも見てみたいものです。
「中2病の神ドロシー」
辻村深月先生。映画化アニメ化を次々と出されて有名な人気作家さんです。以前、雑誌インタビューでオーケンと対談してとても筋少ファンであることを知りました。オーケンも小説を読んだ感想をエッセイなどで書かれてました。今回は唯一の女性作家さんで、女性ファンらしい視点でこの曲を物語にされていて、やはり自分と近い感覚がして嬉しいです。
2013年アルバム「公式セルフカバーベスト 4半世紀」収録。正式タイトルが「中2病の神ドロシー 〜筋肉少女帯メジャーデビュー25th記念曲」ということで、デビュー25周年の記念として作られた曲でした。リリース当時初めて聴いて、内容がバンドが消えて居ない世界に突然なってしまった、というのに驚きでした。映画であるような、ある日突然恋人がいない世界になってしまった、みたいな感じのドラマティック感がどうなってしまうんだろうと思わせる。詩の展開では、いなくなった喪失感と、バンドを好きになってライブを楽しんだ高揚感と幸せを浮き上がらせます。オーケンの作品にあるロックバンドものの詩では、バンドへの愛情を感じます。この世界を辻村先生が素晴らしい物語にされてて感激でした。ある日突然好きなバンドが居ない世界になってて、どうなっていくんだろうとドキドキしながら読みました。主人公が女子高校生で、時代はサブスクもある現代。友達の同級生がファンのバンドが明らかにB-Tがモデルになってて、その先の展開も切ない。私も高校生の時に筋少ファンになったのがバンドブーム時代で、B-Tファンの同級生と仲良くしてそれぞれ教えあったりしてたのは楽しい思い出でした。
物語の展開は、なくなったバンドは歌詞の通りに主人公の想像であったのだけれども、その想像を物語という形に残した。作家さんならではの発想ですね。そのバンドは居なかったが、新しいバンドが出続けている。また、40代になった主人公の友達の好きなバンドは、ある日60歳を迎えたボーカルが突然病死してしまう展開が悲しい。本当にバンドが突然活動が止まってしまうことは、いつかは来てしまう。それでも、バンドが好きだった想いと楽しかった思い出はずっと残る。魂を継いでロックバンドは続いていて、未来に主人公が再び出会うバンドへの愛が伝わります。
「十光年先のボクへ」
柴田勝家先生。プロフィールによると、昭和62年生まれで2014年にSF大賞でデビューしたそうです。元にした筋少曲は、「サンフランシスコ10イヤーズ・アフター」1998年アルバム「SAN FRANCISCO」収録。よく選んで下さったと本当に感心しました。メジャーデビュー10年で活動休止になる直前のベストアルバムに収録された新曲がこれ。筋少のデビューアルバム収録の代表曲、ライブのド定番である「サンフランシスコ」を再録して、その詩の物語から10年後の話で壮大な世界を思わせる、セリフも長く入ったロックオペラのような長尺曲。リリース当時は活動休止に向かっており、その後も演奏されることはありませんでした。この小説集をきっかけに、披露されることになったということで感激です。出会った少年少女の物語、お別れ、生と死といった筋少の世界観にデビュー当時から惹かれてきました。それまでの様々な筋少歌詞物語の総括といった感じで衝撃でしたし、活動休止に向かう時期の悲しさ虚しさがありました。
小説では柴田先生が、オーケンが作り上げた世界観に影響され見事に作品にしてくださいました。幼馴染の恋人がいた主人公が社会に出て、心を壊してしまい実家に戻り、恋人が亡くなり親も亡くして一人で暮らしている。サンフランシスコを仮想とした日本の街で、主人公は地球外の存在に地球人類を滅ぼされて、実験で生かされていると思っている。そこに死んだはずの恋人が現れる。街にやってくる「サーカス」はその地球外の上位存在で、監視にやってくるサーカスが開演する。地球外存在によって1人残された人類である主人公。どう展開するのかなと思いながら読み進めると、意外な結末でほっこりな感じでした。
「日光行わたらせ渓谷鐵道」
滝本竜彦先生。筋少が活動停止中だった時期、著作の「NHKにようこそ!」がヒットしてアニメ化になる際に、筋少ファンの滝本先生がオーケンに主題歌をオファーして、橘高さんと組んで作られた曲をきっかけになってライブが開催、筋少が活動再開するきっかけとなりました。アニメは、ひきこもりの少年のところにやってきたひきこもり脱出を手助けする美少女が現れるっていう内容。元にした筋少曲は「レティクル座行超特急」で、魅力的な美少女が現れるのかなと期待して読みました。
1994年アルバム「レティクル座妄想」収録。滝本先生がもっとも影響を受けてはまった曲なのではないかなと想像させました。でも実際読んでみたら、予想しない設定や、想像できない展開で驚きがあって楽しく読みました。主人公が高校生からはじまり、気になったクラスの女子がいたが卒業後に自殺して亡くなったと同窓会のメッセで知ったってところから。オーケンに影響を受けている作家さんらしさは、主人公がモテなくて官能小説を書いているところも。オーケンが出版した新書の「サブカルで食う」も作中に出てきて、その亡くなったという女子が持っていてちょっとサブカル好きの不思議ちゃんふう。主人公の小説を嫌がらずに読んだというのも、主人公にとっての特別な子と感じるポイント。でも卒業後に仲良くなることなく亡くなってしまい、そこで主人公がショックで小説が書けなくなって代わりに始めた行動というのが驚きだった。これもオーケンファンらしいなと思うと同時に、自分の知っている知識や常識をはるかに超えるような行動で、もしも自分の子供がこういうふうになったら母ショックで辛すぎと思う。主人公は亡くなった女子に精神世界、地獄に行って会おうとガチで行動する。死なない方法で。地獄の底で、レティクル座行超特急から落ちた女子がいた。地獄に行った主人公が、今度は彼女を救いたくて努力する行動もすごい。セブンのスムージー高いから1度しか飲んだことないけど、また飲みたくなった。助けて成仏させたい彼女の描写も、とてもオーケンの作品に影響されまくって染みこみまくった好きな表現が現れているなと思いました。それでこの後の展開も驚きで、本当は地獄で会った女子と同級生は違う子だったという。同窓会で会うクラスの子たちがみんないいやつで良かった。主人公が好きな女子と仲良くなれて、未来に希望を持って生きていける。「レティクル座行超特急」リリース時では歌詞の世界のまま、地獄に落ちたところまでなんだけど、その後続いてきた筋少の作品を追ってきて、地獄から救われたという解釈をしているのだと思いました。
「ディオネア・フューチャー」
空木春宵先生。プロフィールによると1984年生まれで今回の執筆陣で一番若いですね。SF賞でデビューされて、幻想・SF文学作品を発表されているそうです。
2017年アルバム「Future!」収録。この曲はリリース後からライブを重ねるごとに進化して、ハードかつキャッチーで、疾走感や一体感のある楽曲は、コアファンの間で好評で定番化となっていきました。ピンチで後ろ向きな闇から、希望ある未来へと引っ張り上げるような歌詞を膨らませてセリフ入りの物語になっていても十分に素敵だと思うのですが、こちらの小説はまったく違う方向からのアピール、展開な上に、とにかく筋少だけでなくオーケンの全ての作品ネタが濃くて髄所に散らばりまくり、かつオリジナルのSF作品として完成されているのが凄すぎる。どの作家さんも素晴らしいのですが、空木先生は凄いの先に行ってて、オーケンがデビューして40年近くになると、ついにオーケンフォロワーのプロ作家さんはここまで来たかという驚き。オーケンのこれまで作った世界観をぜんぶ入れて、まとめて空木先生の才能で物語に作りあげたという感じ。
主人公は高校入学して、学校に馴染めない。これはあるあるだけど、男女の制服が同じになったらなと思うところは現代の感覚っぽい。そこで主人公についてきているヒロインと自分で名乗ってるボクっ子がいて、うざ可愛い感じとラブコメっぽいのもオーケンの小説のヒロインに似てる。でも明らかに人間じゃなさそうな描写が不思議と思ってたら、自分にしか見えないイマジナリー彼女みたいな設定だった。でも単純にそうはならなくて、現実で好意を寄せるヒロインが出るのかなと思ったけどうそうでもない。学校で孤立して、同級生がみんな下らない、映画や小説の話もしないと思い、世の中の人を壊してやろうと思想する。そこでヒロインの持つ不思議な力で主人公と人を壊す能力を持ったので、悪いやつから「咲かす」という攻撃を試みる。同級生のパパ活女子を目撃して、やろうとするけど性格の優しい主人公は躊躇してしまう。ある時パパ活女子の相手のおじさんが発狂して、それがヒロインが能力を使ったんだよと言う。パパ活女子と仲良くなるのかと思ったらそうじゃなかった。次々に悪人をやっつけるのかと思ったが、優しい主人公はへこんでしまう。ある日に公園に行ったら、そこで不思議な老人と出会う。主人公とのやりとりで、明らかにオーケンがモデルでオーケンの作品に出てくるオーケン的な人物である。その老人が、ディオネア・フューチャーの語り手でピンチになった者をひっぱり上げるおせっかいな人物になっている。老人も若いときからイマジナリー彼女がいて能力が使えると話す。主人公のヒロインが現実ではなく妄想で、忘れて現実を生きるべきと解く。励まされていくのと思いきや、主人公は同調や共感ではなく、老人の考えと自分とは違うと言って自己の意志を持つ。そこでヒロインが女子ではなくて男なんだと告げて、老人が驚く。その世代感ギャップみたいなのも面白かった。美少女じゃなくてスレンダーな男の娘っていう、CV村瀬歩が想像できる感じ。からの林檎もぎれビームでドンマイ酒場が現れて消え、突然のエモいBLでハッピーになってほしい。
「福耳の子供」
和嶋慎治さん。筋少ファンにおなじみ人間椅子のわじーが書いてくれました。
1988年デビューアルバム「仏陀L」収録。バンド初期からの曲で、ライブで定番ではないレアなほう。怪談のような妖しく怖い不思議な感じで、音源では女性のセリフが入っている。詩で書かれてる「お姉さん」と福耳の少年との物語の設定と、わじーの小説では全く違っていました。現代でわじーくらいの年齢の男性が、故郷の土地で少年時代に出会った不思議な体験といった語りで書かれている。福耳の少年が中学に現れて、学校の出来事の中での行動がちょっと変わっているけれど、同級生の間でのトラブルが丸くおさまっていく。そして超常現象っぽい展開で主人公に不思議なメッセージを残して去っていく。青森の昭和の中学生たちの日々の様子がありありと想像できて和みました。
「香菜、頭をよくしてあげよう」
1994年アルバム「レティクル座妄想」収録。シングルリリースされました。ライブでも定番で暖かなミドルテンポの代表曲です。
最後はオーケン本人の小説。近年のエッセイと創作を混ぜたような文章を長くした感じで、オーケン自身の経験をもとに小説として書かれています。これまで出たエッセイなどを読んできたファンなら知っているエピソードが、「香菜」の視点で語られている始まり方になっていて新鮮でした。バンドを始めたばかりの19歳のオーケンが初めて付き合った同じ歳の女性。彼女にはつきあった男性の、その後40年までの未来が見える能力があった。というフィクションを加えて、さらに彼女が干渉したら、その見えた男の幸せな未来は無くなってしまうというデメリット付き。そこで彼女が「見た」未来としてオーケン視点に文章の語りが交代して、実際起きた40年にわたる幸せなバンド活動が語られ、ファンである読者がバンド活動の歩みを振り返り思い出すことができる。という手法に感激して感心しまくり。活動再開後のエピソードを振り返る部分は、バンド活動がより充実したことが感じられて嬉しかったです。フジロック出演は特に印象深かったんですね。さらに小説集に入っている各作品にも触れられているのが素晴らしい。「ディオネア・フューチャー」が、現在のライブでラストを飾る定番曲になったことにも。
そして、もしも彼女がオーケンの未来を見たあとで付き合い続けたら、オーケンの幸せな人生が無いものになってしまう。筋少が無くなってしまうのだ。香菜はそれを阻止するためにオーケンの元を去った。それから40年後、二人は思い出の地で再会しました。オーケンの地元、野方駅のバス停から高円寺駅行のバスが出てきます。
オーケンが思う自分の幸福な人生が、筋少を中心としたバンド活動であること、ファンが好きである気持ちを大事に思っていること。それをまさにオーケン本人が書かれたことが素晴らしいです。私が筋少を知ってファンになってから見続けてきた思い出があって、当時の時代の出来事や風景なども、オーケンの書かれた細かい場面描写によって懐かしく思いました。オーケンが19歳のインディーズ時代、自分は埼玉の外れから東京の中学へ通っていたが、筋少は知らない。でもゼルダは聴いていた。バンドブームのさきがけで米米クラブ、TMネットワーク、レベッカ、爆風スランプなどメジャーデビューしてたバンドをよく聴いてた。それから高校生になった16歳でデビューしてまもない筋少をラジオで聴いて、オーケンのオールナイトニッポンを聴いてファンになった。渋公に行って、武道館に行って、パワステに行って、関東各地のホールに行って、地方のライブハウスも行った。レピッシュやアンジーやB-Tなど他のバンドもたくさん聴いた。イベントライブにも行った。男子と恋愛するような青春なんか無くて、筋少ライブに行くのが一番の楽しみだった。オーケンのサブカル知識に影響されて洋楽ロックや映画や小説、オカルトUFO、格闘技などいろんなものを知ったし、オーケンが出した本やテレビ番組とか映画など色々たくさん見た記憶がある。筋少メンバーの話題から、少し上の大人の男性はこういうものなんだろうと思って憧れた。もし筋少が無くなって楽しみがなくなってしまって、バブル崩壊で就職できなくて男性に愛されるような自信もないから歳とって幸せになれないなら死のうとぼんやり思ってた。ライブに行くために働こうと思ってなんとか就職した。ファンの仲間がたくさんできて楽しく過ごせた。でも楽しいことだけじゃなくて、しくじっていざこざ起こしてしまったりもした。筋少が活動休止に向かう時は辛かった。休止の頃は離れていて演劇やお笑いにハマったりしてた。その間に出産したころ、筋少が復活することになった。嬉しくてそれからまたライブに通うようになって、高円寺もたくさん行ったし、各地ロックフェスにも行った。ファンのこだわりがあるがゆえ、ファン同士の考えが相容れなかったり、嫌われることもありましたが、楽しい思い出を大事にしていきます。健康上の問題や家の問題などで、いつ見れなくなってしまうか分からない。ライブに行けることが一番の楽しみで、見続けたら幸せです。